パンチャタントラ 4.02 ロバのランバカラナ むかし、森にライオンが棲んでいた。彼の名前はカラルケサラという名だった。そしてライオンには、いつも影のようにつき従うドゥーサラカという名のジャッカルの家来がいた。毎日ライオンは狩りをすると、ジャッカルに分け前の肉を残しておいてやるのだった。このようにジャッカルも幸福な暮らしをしていた。 ある日ジャッカルはライオンに言った。 「御主人様! 私はひもじくて、すっかり弱ってしまいました。腹が減って一歩たりとて歩けないほどです。このような状態で、どうやってご主人様にお仕えできましょうか?」 するとライオンは、傷を負ったこの身でも、倒すことの出来るような動物を見つけてくるようにとジャッカルに命じた。そこでジャッカルは獲物を探しに村へと向かった。 ジャッカルは村の外れで、やせこけたロバが、草を食べているのを見かけた。このロバの名はランバカルナと言った。ジャッカルは彼にこう尋ねた。 「おじさん、ごきげんいかがですか? どうしておじさんはそんなにやせて弱ってしまったのですか? 万事うまくいっていたのではないのですか?」 するとロバがこう答えた。 「それが、ぜんぜんなのだ。何もかもうまくゆかないのだ! 主人ときたら、働かせるだけ働かせて、まともに食べ物を与えてくれないのだ。それで弱ってしまったのだ」 すると狡賢いジャッカルが言った。 「それならば、私についてきてごらんなさい。私は緑の草がたくさん生えた場所を知っています。そこへ行けばすぐに、元気になりますよ」 しかしロバは少し心配になり、こう言った。 「わしは家畜だ。わしが森に行ったら、野生の動物たちは気に入らぬだろうし、わしを殺す事だってするだろうて」 するとジャッカルは、その場所は、自分がちゃんと守っているので、心配いらないのだと保証した。しかしロバはその言葉を信じようとはしなかった。 そこでジャッカルは策略を考えて、ロバをおびき出すことにした。 「ねえ、おじさん! あなたは恐れずに、僕についてくるべきですよ。そこには、三匹の牝のロバがいて、日がな一日、緑の草を食べて楽しく暮らしているのです。そして、彼女たちは結婚したがっているのです。それで僕に、結婚相手を連れてくるようにと頼んだのです」 この誘いは、大変魅力的で、ロバも拒絶できなかった。ロバはジャッカルと供に行くことを承知した。ジャッカルがロバを従えて、森へとやってくると、ライオンはたいへん喜んだ。ライオンは起き上がろうとした。しかし、ロバはライオンを見るとすぐさま逃げ去った。ライオンは逃げて行くロバに襲い掛かろうとしたが、ロバはどうにかこうにか、難を逃れた。 ジャッカルはライオンに腹を立てて言った。 「あなたは、ロバさえ殺す能力がない。どうやってゾウと戦うというのですか?」 ライオンはわが身を恥じた。するとジャッカルが、もう一度あのロバを連れて来るので、「今度は慎重にしなければなりませんよ」とライオンに言った。 ライオンには、もう一度ロバがやってくるとは思えなかったが、それでも、警戒を怠らぬと誓った。ジャッカルはロバが駆けていった小道を追いかけ、そして、湖の傍に立っているロバを見つけて話し掛けた。 「おじさん。どうして逃げていったりしの?」 するとロバが答えた。 「息子よ! もうすこしで殺されるところだった! わたしに襲い掛かってきた動物は誰だったんだ?」 すると狡賢いジャッカルが答えた。 「ああ、おじさんたら、あれは、三匹の娘のうちの一人だよ。あの娘を、おじさんは絶対に気に入るはずだよ。彼女はおじさんに抱きつこうとしただけなのに、おじさんときたら彼女の愛も知らず臆病者のように逃げていってしまった。でも、彼女はおじさんなしでは、生きていけない。もし、おじさんを亭主にできないなら、死んでしまうと誓ったんだよ。おじさんは彼女と結婚すべきじゃないかい」 間抜けなロバは、狡賢いジャッカルの言葉を信じて、ライオンの許へと戻って行った。そして、ライオンは今度はしくじることなく、馬鹿なロバを仕留めた。 ロバを殺した後、ライオンは沐浴してくるので、ロバの死体を見ているようにとジャッカルに命じた。ライオンが見えなくなると、ジャッカルはロバの耳と心臓を食べてしまった。 ライオンは戻って来ると、耳と心臓がないのに気づいて、大変怒り、狡賢いジャッカルの仕業ではないかと疑った。するとジャッカルは、このロバには元々耳も心臓もなかったのだと言った。 「いいですか、もし彼に耳があったなら、あなたの唸り声が聞こえないはずがなく、同様に、もし心臓があれば、あなたに襲われたのに、もう一度、戻ってくるはずがありません」 ライオンはジャッカルの説明に納得した。 パンチャタントラ 4.02 愚かな驢馬 (田中於莵弥 上村勝彦訳 大日本絵画) カリーラとディムナ 5.01 驢馬とライオンと山犬 (菊池淑子訳 平凡社 東洋文庫) 類話 ライオンと狐と鹿 336 p248 イソップ寓話集 中務哲郎訳 岩波文庫 ゲスタ・ロマノールム Type 52 徴税人の驢馬は、ライオンに税を求めて殺される。 Type 1218* 心臓の無いウシ。 Cf.Type785 羊の心臓を食べたのは誰だ? Cf.グリム KHM 81 のんきぼうず |