グリム童話 KHM68 泥棒と彼の親方
ハンスは、自分の息子に商売を習わせたいと思いました。そこでハンスは、教会へ行って、何でもご存知の神さま
に、息子に合った仕事はなんでしょうか? とお祈りしました。すると牧師が祭壇の後ろに隠れて、「どろぼう、どろぼ
う」と言いました。そこで、ハンスは息子の許へもどると、神さまがどろぼうになるようにおっしゃったのだから、どろ
ぼうの勉強をするように息子に言いつけました。こうしてハンスは、どろぼうの名人を探しに息子と出かけて行きまし
た。
二人は長いこと歩いて大きな森へとやって来ました。するとそこに、小さな家があり、年老いたおばあさんが住んでい
ました。
「どろぼうの名人は知りませんかね?」ハンスが言いました。
「ここで、しっかりと勉強できるとも」おばあさんが言いました。「あたしの息子は、どろぼうの親方なんだよ」
そこで、ハンスはおばあさんの息子と話し、本当に彼が盗みのことをよく知っているかどうかたずねました。するとど
ろぼうの親方は、「立派に教えることができるとも。一年が過ぎたら戻ってきなさい。あんたが、自分の息子を見分ける
ことができたなら、授業料はいらないよ。でも、見分けられなかったなら、200ターレル払うんだよ」
父親は家に帰り、そして息子は魔法と盗みの技を徹底的に学びました。こうして一年が過ぎました。父親は息子の見分
け方をあれこれ思い悩みました。彼が困り果てて歩いていると、小さな小人に出会いました。
「なにをそんなに思い悩んでいるんだい。あんたはいつもそんな風なのかい?」
小人が言いました。
「実はな・・・」ハンスが言いました。「一年前に、息子をどろぼうの親方のところに置いてきたのだが、その親方は、
一年が過ぎたら戻って来て、その時わたしが、息子のことを見分けられなかったら、200ターレル払い、見分けること
ができたら、払う必要がないと言うのだ。わたしは、息子のことが見分けられないのではないのか? ・・・そしたら
200ターレルの金をどこで手に入れたらよいのやら」
すると小人が言いました。
「パンの耳をもって行き、煙突の下に立つんだ。横木の上にかごがあるから、そのかごから小鳥がのぞいたら、それがあ
んたの息子だよ」
ハンスは出かけて行き、鳥の入ったかごの前に、黒パンの耳を投げました。すると、小鳥が出て来て見上げました。
「やあ、息子よ、こんなところにいたのか」父親がそう言うと、息子は父親を見て喜びました。しかしどろぼうの親方が
こう言いました。
「悪魔がお前に教えたにちがいない。さもなければ、おまえに息子が分かるはずがない」
しかし、若者が言いました。
「お父さん。さあ行きましょう」
こうして父親と息子は家路につきました。二人が歩いていると、馬車が通りかかりました。すると息子が父親に言いま
した。
「今から、大きなグレイハウンド犬に変身しますから、私を売ってたくさん稼げますよ」
紳士が、馬車から呼びかけました。
「そこのお方、その犬を私に売ってくださいませんかね」
「ようございますよ」父親が言いました。
「いかほどで売ってくれるかね」
「30ターレルいただきます」
「わかりました。ずいぶんと値が張りますが、それほど素晴らしい犬ですから、仕方がありませんね」
紳士は犬を馬車に乗せました。しかし、しばらく行くと、犬は馬車の窓から外に跳びはね、父親の許へと帰ってきて、
グレイハウンドからもとの姿に戻ってしまいました。
親子は供に家へとつきました。次の日、隣町で市が開かれました。そこで若者は父親に言いました。
「今度は、美しい馬に変身しますから、それを売ってください。しかし、私を売ったならば、馬勒を外さなければなりま
せんよ。さもないと、私は再び人間に戻れなくなってしまいますからね」
こうして、父親は馬に変身した息子とともに市へ行きました。すると、どろぼうの親方がやって来て、百ターレルでそ
の馬を買いました。しかし父親はうっかりして、馬勒を外しませんでした。そこでどろぼうの親方は、馬を家に連れ帰る
と、馬小屋に入れてしまいました。
女中さんが馬小屋の敷居をまたいたとき、馬が言いました。
「私の馬勒を外しておくれよ。私の馬勒を外しておくれ」
女中さんは、じっと立ったまま言いました。
「なんで、あんたはしゃべれるの?」
女中さんはこう言うと、そばに行って馬勒を外してやりました。すると、馬はスズメになりました。そして、扉の外へ
と飛んで行きました。するとどろぼうの親方もスズメになり、彼のあとを追いかけました。
彼らは一緒になって、取っ組み合いをしました。すると親方が負けました。そこで親方は水の中に入り魚に変身しまし
た。すると若者も魚に変身して、また取っ組み合いをしました。そしてまた親方が負けました。そこで親方は、オンドリ
に変身しました。すると若者はキツネに変身して、親方の頭を噛み切りました。こうしてどろぼうの親方は死に、今でも
その死体はそのまま残っていますとさ。
(日本語訳 Keigo Hayami)
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