イギリスの昔話 ジャック・ハナフォード by Joseph Jacobs 長いこと戦場で戦ってきた年老いた兵士がいました。・・・兵士は、それは長い間、戦場にいたので、大変みすぼら
しい身なりをしていて、どこで働くところを見つければよいかも分かりませんでした。そこで、兵士は荒れ野や谷間を歩
いて行きました。そして、ついに一軒の農場にたどり着きました。 農夫は市場へ行く前に、妻にこう言いました。「ここには、金貨で10ポンドある。俺が帰ってくるまで、気をつけ
るんだぞ」 「ここに置けば、泥棒だって絶対に見つけられないわ」 老兵のジャック・ハナフォードは、その家にやって来るとドアをノックしました。 「どなたですか?」 農夫のおかみさんが言いました。 「ジャック・ハナフォードと申します」 「どこからいらしたの?」 「天国からやって来ました」 「主よ感謝いたします。あなたはきっと、あたしの昔の男にお会いになりましたわね」 「はい。会いましたとも」 「では、彼はどうしていましたか?」 間抜けなおかみさんが尋ねました。 「まあまあの暮らし振りですよ。古い靴を修理をして、野菜はキャベツだけでしたけどね」 「まあ、なんてことでしょう」年老いた夫人が叫びました。「彼はあたしにことづけをしなかったのですか?」 「ありますよ」ジャック・ハナフォードは答えて言いました。「彼は革がなく、ポケットは空ッ欠なので、革が買える ように、数シーリングを送ってくれと言ってましたよ」 「送りますとも、彼の魂が、浮かばれますようにね」 ジャックは、金を受け取るとすぐに、ものすごい急ぎ足で出掛けて行きました。 間もなく、農夫が家に帰ってきて、金はどうしたかと妻に尋ねました。すると彼女は、天国にいる前の亭主が、聖人
や天使の靴を繕う革が買えるようにと、兵士に持たせてやったのだと答えました。 無駄口を叩いている暇はありませんでしたので、農夫は、ウマに乗ると、ジャック・ハナフォードの跡を追いかけま した。老兵は背後から聞こえてくるウマの蹄の音を聞いて、農夫が追いかけて来たに違いないと思いました。そこで彼は 地面に横になると、片手を両目にあてがい、空を見上げました。そして、もう一方の手で、天を指差しました。 「お前さんは、そこで何をしているんだね」 「何を見たと言うんだ?」 「一人の男が、まるで道を歩くように、空を真っ直ぐ昇っているのです」 「まだ、見えるのか?」 「はい。見えますよ」 「どこに見えるんだ?」 「ウマから降りて、横になってごらんなさい」 「それでは、ウマをおさえておいてくれるかね」 ジャックは、愛想よく引き受けました。「私には見えないがね」農夫が言いました。 「手を両目にあてがえば、あなたから飛で逃げる人を見ることができますよ」 農夫が言われたとおりにすると、ジャックはウマに飛び乗り、逃げ去ってしまいました。農夫はウマを失って歩いて 家に帰りました。 「あんたは、あたしよりも大馬鹿者だよ」妻が言いました。「あたしは、馬鹿なことは一つしかしなかったけど、あん たは二つしたんだからね」 (日本語訳 Keigo Hayami) Type 1540 天国(パリ)から来た学生 グリム童話集 KHM104 知恵のある人たち |
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