イギリスの昔話 バラの木 by Joseph Jacobs

 むかしあるところに、正直な男が住んでいました。彼には、最初の奥さんとの間に生まれた女の子と、二番目の奥さ んの間に生まれた男の子がいました。女の子はミルクのように色白で、唇はサクランボのように真っ赤で、髪の毛は黄金 の生糸のように輝き、真っ直ぐに伸びていました。兄は妹を心から愛していました。しかし、悪い継母は娘を嫌いまし た。
「娘よ」ある日のこと継母が言いました。「雑貨屋へ行ってロウソクを一束買ってきておくれ」
 継母はそう言うと娘にお金を渡しました。こうして幼い娘はロウソクを買いに行きました。娘はロウソクを買うと家路 につきました。すると柵が道をふさいでいました。娘はロウソクを置いて、柵を乗り越えようとしました。すると犬が やって来て、ロウソクをくわえて走って行ってしまいました。

 娘は店屋へ戻り、そして再びロウソクを買いました。そして例の柵の所に来ると、ロウソクを置いて、柵を乗り越えよ うとしました。するとまた犬がやってきて、ロウソクをくわえて走って行ってしまいました。

 娘はまた店屋へ戻り、ロウソクを買いました。これで三度目です。そして、三度目もまた、犬にロウソクを取られてし まいました。娘は泣きながら継母の許へと帰って行きました。というのも、娘はお金を全部使い果たしてしまい、そして ロウソクを全部犬に取られてしまったからです。

 継母は大変腹を立てましたが、全然気にしていないという振りをして言いました。
「さあ、こっちへおいで、髪の毛を梳いてあげるから、あたしの膝に頭をおのせ」
 そこで、幼い娘は、継母の膝の上に頭を乗せました。継母が櫛を入れると、黄金の絹のような髪は、継母の膝をすべり 床へと真っ直ぐに垂れました。

 継母は、娘の美しい髪を見て、以前にもまして娘を嫌い、そしてこう言いました。
「膝の上では、お前の髪を梳いてやることができないよ。木の板を持っておいで」
 娘は木の板を持ってきました。すると継母が言いました。
「櫛ではお前の髪を分けてやることができないから、斧を持っておいで」
 娘は斧を持ってきました。

「それじゃあ」悪い継母が言いました。「この板の上に頭をおのせ、髪の毛を分けてあげるからね」

 ああなんということでしょう! 娘は何の疑いもなく、小さな黄金の頭をその板の上にのせました。万事休す! 斧が 振り下ろされ、首が刎ねられました。しそて母親は斧をぬぐうとゲラゲラ笑いました。

 そして継母は、小さな娘の心臓と肝臓を取り出すと、それをシチューにして、夕食に供しました。旦那さんは、それを 食べて首をかしげて、これはなんとも不思議な味がすると言いました。母親は少年にも与えました。しかし少年は食べよ うとはしませんでした。母親は無理やり息子に食べさせようとしました。しかし少年は拒みました。そして庭に走り出 し、小さな妹の遺骸を拾い上げると、小さな箱にいれて、バラの木の下に埋めました。そして少年は、毎日その木のとこ ろへ行って泣きました。涙が箱を濡らすまで泣きました。

 ある日のこと、バラの木に花が咲きました。春が訪たのです。花々に囲まれて白い鳥がいました。そしてその鳥は、ま るで天国からやってきた天使のように、歌を歌いました。その鳥は飛び去ると、靴屋へと行き、すぐ近くの木にとまり、 次のように歌いました。

「悪い母さんあたしを殺し、
愛する父さん、あたしを食べた。
あたしのすきな兄さんは、
あたしの下へやってきて、
あたしは上で歌うのよ、
ステック・ストック・ストーン・デッド」

「美しい歌をもう一ど歌っておくれ」靴屋さんが言いました。
「あなたの作っている、小さな赤い靴をくれるなら歌ってあげるわよ」
 そこで、靴屋はその靴をあげました。すると鳥は歌いました。そして、今度は時計屋さんの店先にある木に飛んで行っ て歌いました。

「悪い母さんあたしを殺し、
愛する父さん、あたしを食べた。
あたしのすきな兄さんは、
あたしの下へやってきて、
あたしは上で歌うのよ、
ステック・ストック・ストーン・デッド」

「ああ、何て美しい歌なんだ! もう一度甘い歌声を聞かせておくれ」時計屋さんが言いました。
「あなたの持っている、金の時計と鎖をくれるならば歌ってあげるわよ」
 時計屋さんはその時計と鎖を与えました。鳥は片方の足に赤い靴、そしてもう片方に、鎖のついた金時計を持って歌い ました。それから鳥は、三人の粉挽きが石臼を突いている所へ飛んで行き、近くの木にとまり歌を歌いました。

「悪い母さんあたしを殺し、
愛する父さん、あたしを食べた。
あたしのすきな兄さんは、
あたしの下へやってきて、
あたしは上で歌うのよ、
ステック!」

 一人が道具を置いて、仕事の手を休めて見上げました。

「ストック!」

 もう一人の粉挽きが道具を脇において、見上げました。

「ストーン!」

 三人目の粉挽きが道具を置いて見上げました。

「デッド!」

 三人は声を一つに叫びました。「ああ、なんて美しい歌なんだ。鳥さんよ、もう一度甘い声で歌っておくれ」
「もし、あなた方が、あたしの首に石臼をかけてくれるなら・・・」鳥が言いました。三人は鳥の言うとおりにしてやり ました。それから鳥は、首に石臼をかけ、片方の足には赤い靴を持ち、もう片方には、金時計と鎖をもって木に飛んで行 くと、歌を歌いました。そして今度は自分の家へと飛んで行きました。鳥は家のひさしを石臼で叩きました。すると継母 が言いました。
「雷かしら」
 そこで少年がその雷を見ようと、外へと急いで出て行きました。すると少年の足元に赤い靴が落ちてきました。鳥はも う一度家のひさしを石臼で叩きました。すると継母がもう一度言いました。
「雷かしら」
 そこで父親が急いで外へと出て行きました。すると時計が落ちてきて、父親の首に鎖がかかりました。

 父親と息子は走り回って、笑いながら言いました。「見てごらん。雷ときたらこんなに素晴らしいものを与えてくれた よ」
 すると鳥はもう一度、これで三度目、家のひさしを石臼で叩きました。すると継母がいいました。
「また雷かい。きっとあたしにも、なにか持ってきてくれたのよ」
 こう言って継母は外へと走り出ました。しかし、継母が戸の外へ出た途端、石臼が彼女の頭に落ちてきて、継母は死ん でしまいました。

(日本語訳 Keigo Hayami)


Type 720 母は私を殺し、父は私を食べた。

KHM47 びゃくしんの話

  説話一覧

copyright (c) 2001 Keigo Hayami

inserted by FC2 system