平成教育委員会とシスアドと川を渡す問題以前、フジテレビ系列の番組に、「たけし・逸見の平成教育委員会」という番組がありました。番組内容は、小学生の受験問を大人たちが解くというもので、逸見正孝・級長をはじめ、田中康夫君・渡嘉敷君・岡本夏木君・藤原公達君・どんと君 など、個性豊かな面々が頭を悩ませていました。 さて、この中で、定番ともいえるような問題がありました。それは、舟でいろいろな動物を川の向こう岸に渡すという問題です。例えば、こんな問題です。 ある人が、狼と山羊とキャベツを川の向こう岸に船で渡します。その船には、その人と、他に一つしか乗せられません。その人は、狼が山羊を食べないように、山羊はキャベツを食べないようにしなければなりません。どのように渡せばよいでしょうか? 答えは二つあります。 (1)まず、山羊を向こう岸に運び、一人で引き返して、狼を運びます。向こう岸に着いたら、狼を置き、羊を連れて引き返します。そして山羊を置き、キャベツを持って向こう岸へ渡ります。そして戻って、山羊を連れてきます。 (2)まず、山羊を向こう岸に運び、一人で引き返して、キャベツを運びます。向こう岸に着いたら、キャベツを置き、山羊を連れて引き返します。そして山羊を置き、狼を連れて向こう岸へ渡ります。そして戻って、山羊を連れて来ます。 文章だけではわかりにくいので、表にしてみました。
そういえば、こんな問題があった。と、思い出した方もいると思いますが、しかし、実は上の問題は、外国の昔話なのです。 ところが驚いたことに、これと全く同じ問題が、上級システムアドミニストレータ 試験に出題されています。 平成12年度 秋期 上級システムアドミニストレータ 午前 問1 (犬 人 菜 羊−φ)初期状態 ↓ (犬 菜 − 人 羊 ) ↓ (菜−犬 人 羊 )←( a )→(犬−人 菜 羊 ) ↓ ↓ (人 菜 羊−犬 )→( 羊−犬 人 菜 )←(犬 人 羊−菜 ) ↓ ( 人 羊−犬 菜 ) ↓ (φ−犬 人 菜 羊) 最終状態 ア 犬−人 菜 羊 答えはもちろん、ウ です。この問題は(狼→犬)(山羊→羊)(キャベツ→菜)となっているだけで、内容自体は先の昔話と全く同じです。 それにしても、現代の最先端の情報処理関連の試験に、昔話が用いられているというのはとても面白いと思います。 ところで、この昔話は、あまりにもよく出来すぎていて、最初からこのような型であったとは思えません。そこで、この原型はどのようなものであったか、探ってみたいと思います。 まず、Type 1579 の参照として、Type 212* が提示されています。 男は山羊とキャベツを売るために、市場に運ぶが、山羊はキャベツを食べて逃げる。 これには、川を渡るというモチーフが含まれていません。そこで、川を渡るモチーフの話を見てみると、Type 2300 番に、「果てしない物語。 数百匹の羊を、一匹ずつ川を渡す」という話があります。この話は、日本で17世紀の前半に出版された、伊曽保物語(イソップ物語)にも含まれていますのでこれを見てみたいと思います。 伊曽保物語 中 第四 イソップ、帝王に答える物語の事 ネタナヲ国王は、毎晩毎晩イソップを呼んで、昔話や最近あった面白い話を語らせた。ある晩のこと、夜がふけてイソップはややもすれば眠くなって舟をこいだ。 するとネタナヲ国王が、「けしからん奴だ。さあちゃんと話せ」と怒った。イソップは恐れ入って、帝王に次のような話をした。 「では、近頃の話を致します。ある人が、千五百匹の羊を飼っていました。その人は羊を川まで連れてくると、いつも大きな船に乗せてその川を渡らせていました。その川は底が深くて、歩いて渡ることができなかったからです。ある日のこと、その時は、急なことだったので、船を手配することができませんでした。その人は如何ともしがたく、ここかしこと訪ね歩いたところ、小舟が一そう川辺にあるのを見つけました。しかしその舟は二人も乗ればいっぱいになってしまうような舟でした。それでも仕方がないので、その人は羊を一匹乗せて川を渡りました。さて、残りの羊はたくさんいるので、渡りきるにはどれくらいかかることでしょうか」イソップはここまで話すとまた居眠りを始めた。 すると、国王は激怒して、「居眠りするとは、無礼千万な奴め。最後までちゃんと話をせんか」と怒鳴りつけた。するとイソップは、恐れ恐れこう言った。「千五百匹の羊を、小舟で一匹づつ渡せば、どのくらいの時間がかかることでしょうか。羊を皆渡し終える間、眠っているのです」 この話は、ペトルス・アルフォンスが著した「知恵の教え」という説話集に収められていた話から、イソップ寓話に取り入れられたようです。 このような、舟で羊を一匹ずつ渡らせるというような話と、Type 212* の山羊がキャベツを食べて逃げる。といような話が結びついて、先の Type 1579 のような話になったのかもしれません。しかし、ここには、オオカミが出てきません。そこで次の、今昔物語を見てみます。 今昔物語 2-31 微妙比丘尼(みみょうびくに)の話 前略 大変悲惨な話なのですが、川を行き来して渡す話で、しかも一人にした小さい子供は狼に食われてしまうというのは、Type 1579 の原型のように思えます。更に、西洋にはこんな話があります。 変身物語 IX 100-158 (A.S.Kline) ジュピター神の子、ヘラクレスが、新妻のデイアネイラと一緒に、生まれ故郷に行く途中、流れの速いエウエヌスの川へとやって来た。冬の雨で水かさは普段よりも高く、ところどころ渦が巻き、渡ることが出来なかった。もちろんヘラクレス一人ならば何も恐れるものなどなかった。しかし、花嫁のことが心配だったのだ。その時、ケンタウロス族のネッソスがやって来た。彼は手足が強くそれに浅瀬のことをよく知っていた。 ヘラクレスは、ただちに、矢筒とライオンの毛皮だけを身にまとった姿となり、こん棒と曲がった弓を向こう岸に投げて、こう言った。「渡るならば、川と戦わねばな」 「この痴れ者め。足の速さを頼みに妻を連れ去ろうとしても無駄だ。半人半馬のネッソスよ。私はお前に言っているのだ。よく聞くがよい。私のものに手を出してはならぬ。私に対してなんの敬意も払わぬとしても、父親のイクシオンのことを思い出せ。お前の親父の車輪の回転の刑を思えば、不埒な真似などできまい。お前がどんなに馬の速さを誇っても、逃れることはできぬのだ。私は足ではなく、"刺し傷"でお前を追いかけるのだ」 ヘラクレスは弓を構えながら、最後の言葉を言い終えると矢を放った。そして逃げて行くネッソスの背中を貫いた。サカトゲのついた鏃が、ケンタウロスの胸から突き出た。ネッソスが矢の柄を引き抜くと、レルナのヒュドラの毒の混ざった血が、背中と胸の傷から同時に流れ出た。ネッソスはこれをおさえると、一人呟いた。 ネッソスは、自分のシャツに温かい血を染み込ませ・・・これは、消えかけた愛を蘇らせる力があるのだ。と偽って、デイアネイラに贈った。 注:アルケイデスはヘラクレスの別名 ところで、アフリカに棲息する、「ヌー」というカモシカの仲間の動物は、乾季になると水を求めて集団で、大移動するそうですが、川を渡る時に、親子がはぐれてしまい、川を行ったり来たり何度も繰り返します。案外こういった自然の営みも、昔話に影響しているのかも知れません。 最後に、少し前に流行った難問を・・・・(出所不明) 「父、母、息子2人、娘2人、召使い、犬」がいます。彼らは川を渡ろうとしています。船は一そうしかありません。乗れるのは2人だけで、操舵できるのは父と母と召使いだけです。父は母がいないと娘を殺してしまい、母は父がいないと息子を殺してしまい、犬は召使いがいないと家族を殺してしまいます。どうやれば誰も死なずに川を渡れるでしょうか。 2001/07/06 |
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